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0.新しい口腔ケアコンセプトについて

管 武雄
鶴見大学歯学部高齢者歯科学講座・歯科医、介護支援専門員

既存の口腔ケア手法の欠点を補い、さらに高いレベルでのケアを実現するために考案したのが湿潤剤を用いた口腔ケア手法です。
ここで提案する口腔ケア手法は、「常時の保湿」を口腔ケアの前提条件と位置づけ、残存歯のケアと粘膜のケアを両立させる方法です。これまで、個々の技術や道具は存在しましたが、総合的にケアできる手法はなく、まったく新しい手法といえるものです。


口の中は本来、常時湿っている場所です。もっと言えば、湿ってなければいけない場所なのです。粘膜は乾燥に弱いのですが、舌もまた乾燥に弱い器官です。舌の表面には味覚センサーである味蕾もありますし、神経も豊富に分布しています。口腔乾燥は、種々の症状を引き起こします。
下に新しい口腔ケアのコンセプトを示します。保湿からはじまる口腔ケアの基本概念を簡潔に示したものです。

 

1.口腔ケアの前提条件

「保湿からはじまる口腔ケア」と呼んでいるように、介助による高度介入による口腔ケアの基本は常時の保湿です。意識障害があって、常に開口状態で口腔乾燥が高度の患者さんでは、口腔ケアは難しいものです。剥離上皮は堆積し、痰は吸引しづらく、口臭もひどいことが多くあります。これまでもワセリンやグリセリン、場合によっては高価なヒアルロン酸を使用し保湿しようとしている様子を何度も拝見してきましたが、いずれもケアとしては不十分でした。保湿を継続できないのです。そのときだけの保湿は意味がありません。
口腔内を湿潤させ、保湿することで日常のケアを効果的に提供したかったのです。常時の保湿を確保する手法、それが口腔ケアの前提条件になるのです。

 

2.高度介入における歯のケアについて

高度介入の口腔ケアが必要な患者さんの多くは、含嗽ができず、口腔内の水を声門進入(誤嚥)してしまう状態ですので飲水までも禁止されているケースがみられます。しかし、誤嚥予防や口腔機能維持を考えた場合、飲水禁止するだけでは何も解決しません。口腔ケアが提供できなければ、口腔機能の維持・改善・向上は不可能だからです。


残存歯がある場合にはブラッシングが必要になります。歯間部、咬合面小窩裂溝などブラシでなければ届かないところに細菌は繁殖し、プラークを形成し、バイオフィルムになっているのです。物理的に破壊しなければならない汚れの塊ですので、スポンジブラシやガーゼでの清拭では届かず、ケアしたことになりません。

通常、残存歯のケアは歯ブラシによってプラークを破壊し、洗い流すことでプラークコントロールしています。禁水が問題になるのは、物理的にプラークを破壊しても、それを洗い流すことができないからです。そのための専用の口腔ケア機器も開発されており、注水しながらブラッシングを行い、同時にプラーク混じりの水を吸引してしまうという効果的な方法がありますが、まだまだ普及するまでには至っていません。
水を咽頭落下流入させないために、われわれは湿潤剤を用いてブラッシングする方法を提案しています。これなら咽頭にプラーク混じりの水を落下流入させる心配はありません。

さらに、安全な口腔湿潤剤を用いたブラッシングに加え、給水・吸引ブラシと併用することでケア時間の大幅短縮が可能になることもわかっています。安全かつ効率的なこのケア手法は、今後施設におけるケアの強い武器になるでしょう。

 

3.高度介入における粘膜のケア

粘膜のケアは、未開発の部分も多いのですが、全介助によるケアで重要なのは清掃(剥離上皮や食物残直の除去)と「刺激」(マッサージ)です。いずれにも口腔湿潤剤を併用するのが「保湿からはじまる口腔ケア」です。
そして、口腔湿潤剤の塗布や除去、剥離上皮の清掃やマッサージに用いるのがスポンジブラシです。スポンジブラシは、粘膜に対する効果的な道具として様々な場面で活躍します。ぜひ、使用法をマスターしてほしい道具の一つです。

スポンジブラシの選択基準は、第1に柄がプラスチックで折れにくく、弾力があることです。ケア時にはこの弾力を応用します。紙製のものは濡れると弱くなり、折れてしまいます。第2にスポンジ部分は柔らか過ぎず、柄からはずれにくいことです。スポンジのエッジ(角部分)を使いますので、柔らかいものは適しません。また、口腔ケア時に咬んでしまう場合を考慮して、少々のことでははずれないブラシを選ぶ必要があります。われわれは東京技研製の「ビバくるりん」をよく使っています。

 

情報提供:菅 武雄先生(鶴見大学歯学部高齢者歯科学講座・歯科医師 介護支援専門員)

参考文献:
・看護技術Vol.53(2007).メヂカルフレンド社
・老年歯科医学 第21巻,第2号,130〜134



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