OralStudio オーラルスタジオ

口腔機能低下はいつ始まるのか?:2022/04/18公開

■ ご解説くださる専門家


佐藤 美寿々先生



■ 統計情報出典


2019(令和元)年 国民健康・栄養調査

国民健康・栄養調査は、健康増進法に基づき、国民の身体の状況、栄養摂取量及び生活習慣の状況を把握するため、毎年11月に実施されています(令和2、3年は新型コロナウイルス感染症の影響により中止)。



■ 結果の概要


自己申告による歯の本数が19本以下の人、すなわち 8020未達成者の割合 は60歳代で30.7%、70歳以上で54.3%でした。

食事中の様子について、
「左右両方の奥歯でしっかりかみしめられない」 と回答した者の割合は、60 歳代で 45.8%、70 歳以上で 43.3%であり、4割を超えていました。
「半年前に比べて固いものが食べにくくなった」「お茶や汁物等でむせることがある」「口の渇きが気になる」 者の割合は70 歳以上で最も高く、それぞれ 36.6%、27.2%、25.7%でした。


2022/4/16

歯が19本以下の人の割合と食事の様子



■ 解釈


高齢化が進む中で、健康寿命の延伸は重要な課題となっており、う蝕や歯周病による 歯の喪失 により、咀嚼機能低下や口腔周囲筋の機能低下、唾液流量減少など口腔機能の低下が進み、栄養摂取が低下し、更には フレイルやサルコペニアの進行、誤嚥性肺炎へつながる ことが指摘されています。(1–3)。

これらの知見をもとに、2014年には日本から、調音機能の低下、むせ、食べこぼし、噛めないものの増加などといった 口腔の軽微な機能低下の兆しを表す「オーラルフレイル」という概念 が提唱され、世界にも広まりつつあります。(4)

本調査の結果より、「しっかり噛めない」「口渇」「むせ」など オーラルフレイルの可能性がある者は4,50代頃から増加し、特に60代以降で顕著になっていく ことがわかります。

高齢者においては、う蝕や歯周病などの歯科疾患の予防・治療だけでなく、口腔機能に着目した対策が重要 であると考えられます。



■ 将来予測・課題


オーラルフレイルは早期に介入を行うことで改善 が見込まれます。

2018年より「口腔機能低下症」の検査と訓練が健康保険に収載され、歯科医院において高齢者の口腔機能低下への対応が可能となりました。ただし、現時点では対応可能な歯科医院が非常に限られているため、今後は更なる普及が必要 であると考えます。



■ 参考文献


1. Iwasaki M, Hirano H, Ohara Y, Motokawa K. The association of oral function with dietary intake and nutritional status among older adults: Latest evidence from epidemiological studies. Jpn Dent Sci Rev. 2021 Nov 1;57:128–37.

2. Iwasaki M, Watanabe Y, Motokawa K, Shirobe M, Inagaki H, Motohashi Y, et al. Oral frailty and gait performance in community-dwelling older adults: findings from the Takashimadaira study. J Prosthodont Res. 2021 Oct;65(4):467–73.

3. Yoneyama T, Yoshida M, Ohrui T, Mukaiyama H, Okamoto H, Hoshiba K, et al. Oral Care Reduces Pneumonia in Older Patients in Nursing Homes. J Am Geriatr Soc. 2002;50(3):430–3.

4. Minakuchi S, Tsuga K, Ikebe K, Ueda T, Tamura F, Nagao K, et al. Oral hypofunction in the older population: Position paper of the Japanese Society of Gerodontology in 2016. Gerodontology. 2018 Dec;35(4):317–24.

2022年04月18日

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