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歯科医療は認知症の予防に有用なのか?:2022/04/20公開

■ ご解説くださる専門家


白山 靖彦先生
徳島大学大学院医歯薬学研究部 地域医療福祉学分野 教授



■ 統計情報出典


厚生労働省:認知症の将来推計について参考資料(2021年4月20日アクセス)

■ 提起


超高齢化社会を迎え,認知症者の増加が喫緊の課題となっています.厚生労働省が示す認知症有病率の推計では, 2025年に認知症者が700万人に達する 見込みです1).
700万人とは,四国4県人口380万人の1.8倍にあたり,これは他人事ではありません.

そこで今回は歯科医療がこの問題解決に向けてどの程度貢献できるのか,についてお話させて頂きます.



■ 結果


歯科医療における認知症予防効果についてですが,愛知県の65歳以上の健常者4千人以上を4年間追跡したコホート調査で,

・歯がほとんどないのに入れ歯を使用していない人
・あまり噛めない人
・かかりつけ歯科医院のない人
では,その後,認知症が発症するリスクが高くなることが分かりました.

特に,歯がほとんどないのに入れ歯を使用していない人は,20 本以上歯が残っている人に比べて1.9倍も認知症発症のリスクが高かったと報告しています2).

この研究結果は公衆衛生学的に有用なものですし,歯科医療が認知症施策に果たす役割をしっかりと明示 しています.すなわち, 8020運動は正解だった と言えます.



■ 解釈する時の考え方


わたしたち研究者は,こうした大規模コホート調査について穿った目でみることがあります.
例えば歯科検診にわざわざ来る人ってどんな人かと言えば,自分の健康や口腔状態に関心のある人(ヘルスリテラシーの高い人)となります.ということは,すでに対象者に何らかの選択バイアスがかかっているであろうと予想します.

もし,健康に無関心な人を調査したら果たして同じ結果になったのだろうか,とも考えます.

最近これだけ喫煙者が減少しているのに肺がん罹患率がむしろ増加しているのはどうしてだろうと思うのと似たような感覚になる訳です.これが物事を批判的に俯瞰するということです.

ついエビデンス(科学的根拠)という魔法にかかりやすい ことも知っておくべきです.だから〇と×は有意に関連があると示す場合,対象者の選択バイアスについて再考しておくことが必ず求められます



■ テーマに対する答え


結論から申し上げますと「だれも認知症を完全に予防することはできない」です.

2022/4/20

英国の権威ある医学雑誌「LANCET」(2020)3)では,修正可能な認知症危険因子は「教育不足,高血圧,聴覚障害,喫煙,肥満,うつ病,運動不足,糖尿病,社会的接触の少なさ,過度のアルコール消費,外傷性脳損傷,大気汚染」であり,合わせても全体の40%であると報告しています.残りの60%は不明 です.

今回,歯科関係の因子はなにも触れられていません でした(上の図参照).次回の報告では残歯20本以上であれば〇%とかあれば嬉しいですし,だからこそ臨床と研究の重層的取組みが重要だと考えています.



■ 参考文献


1. 厚生労働省:認知症の将来推計について参考資料(2021年4月20日アクセス)

2. Yamamoto, T., Kondo, K., Hirai, H., Nakade, M., Aida, J. and Hirata, Y.: Association between self-reported dental health status and onset of dementia: a 4-year prospective cohort study of older Japanese adults from the Aichi Gerontological Evaluation Study (AGES), Project Psychosomatic Medicine, 74: 241~248, 2012.

3. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission(2022年4月20日アクセス)

2022年04月20日

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