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COVID-19について歯科医院が懸念すべきこと

COVID-19について歯科医院が懸念すべきこと

■ 初めに


COVID-19は、有効なワクチンや治療薬がまだ存在せず、未知な側面が多いウィルスです。感染力は非常に強く、発症すると軽症でもかなりつらい症状を引き起こし、重症化すると命の危険もあります。

現在世界的なパンデミックを引き起こしており、可及的早急なこのウィルスの封じ込めが必要なため様々な対策が講じられています。



■ なぜ感染対策が必要なのか


自分自身を守るために、
所属している社会を守るために、
個人・地域社会における感染拡大抑制対策は、非常に重要です。



■ COVID-19の特徴


・接触感染・飛沫感染が主

・クラスター(集団感染)を引き起こす

・潜伏期間の平均は5日程度
←1〜17日とばらつきが大きい *1

・発症前に感染力のピークがある可能性が高い *2

・感染しても30から50%が無症状 *3,4
・感染者の4%が重症化@日本 *5
・10~30歳代の致死率は0.2% *6
・80歳以上の致死率は15% *7

・症状は急激に悪化しやすく、重症化すれば呼吸器管理が必要。
→パンデミックが発生すれば医療資源の枯渇・医療崩壊を来す可能性が非常に高い



■ なぜ歯科医療現場で対策が必要か


・地域社会を守るため
・患者さんを守るため
・医院スタッフを守るため

→歯科医院や歯科医療従事者が感染のハブになることは絶対に避けなければなりません。



■ 歯科医院における感染リスクと誤解


歯科診療空間において、感染リスクの高い順に並べると…

・歯科衛生士
・歯科医師
・歯科スタッフ
・患者さん

最大のリスクは、

・歯科治療中のエアロゾル(飛沫感染)・感染者による環境表面の汚染(接触感染)
により、感染が拡大することです。

←器具の滅菌が確実でも、感染経路が異なるためCOVID-19感染対策としては不十分

←肝炎ウィルスやHIVウィルス(体液を介する感染)の感染経路とCOVID-19の感染経路(飛沫・接触感染)は別なので、肝炎ウィルスやHIV対策が万全でもCOVID-19対策としては不十分



■ 患者さんを診る前に… *8


口腔外科学会からの注意喚起やADAのCOVID-19リスクを鑑みた歯科対応アルゴリズムでも示されている通り、まず以下の3点を十分に検討すべきです。

① 緊急性の高い治療のみ対応
② 延期できる治療や定期検診は延期
③ 必要に応じてCOVID-19検査依頼



■ もし治療する場合は…


治療する患者は「COVID-19陽性であることを前提に対応」すべきです。

治療における注意点としては以下の通り
・患者さんの発熱や呼吸器症状の確認

・術者、アシスタントの感染防護
←N95マスクが望ましい、フェイスシールドまたはゴーグル、ガウンやキャップ着用

・エアロゾルが発生する機器(タービンや超音波スケーラー等)使用の回避

・口腔外バキュームの併用

・できればラバーダム装着

診療環境における注意点としては以下の通り

・診療エリアの環境表面に対する消毒
・術者、アシスタント、患者さんの手が触れる環境表面に対する消毒

・待合室には患者さんのみ待機(複数名の場合、ソーシャルディスタンスを確保し、患者はマスク着用)
・常時換気

以上を念頭に行うべきです。
← 受付エリアのビニールによる防護等は、上記項目を適切に運用した上で効果があると考えられます。



■ 実際のところ


一般の開業医院において、これらの項目を全て満たした上で診療を提供することはかなり困難であると予想されます。

スタッフや患者さん間における感染リスクを考慮すると、歯科医師とアシスタント1人体制で緊急性の高い治療のみ対応するのが現実的だとOralStudioでは考えます。



■ 思うこと


報道によると、都市部のクリニックは緊急事態宣言による人出抑制により結果的に緊急性の高い治療のみ歯科医師1人で対応されていることが多いようですが、一方で住宅地においては時間ができた患者さんが受診されるため増患していると聞きます。

感染拡大防止の観点より、安易な受診、緊急性の高くない治療は行うべきではありません。

医院経営的な問題も様々ありますが、今回我々歯科医師が取るべき行動原理は全く別次元のものであり、COVID-19感染の最前線で尽力してくださっている医療人への敬意からも、また、地域を守る開業医としての責務としても、我々歯科医師は注意深く行動する必要があると考えます。



■ 参考文献


*1. https://www.worldometers.info/coronavirus
*2. He et al., Temporal dynamics in viral shedding and transmissibility of COVID-19. Nature Med.
*3. Nishiura et al., Estimation of the asymptomatic ratio of novel coronavirus infections (COVID-19). International Journal of Infectious Diseases
*4. Russel et al., Estimating the infection and case fatality ratio for COVID-19 using age-adjusted data from the outbreak on the Diamond Princess cruise ship CMMID Repository
*5. 厚生労働省データ:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10936.html
*6. Chinese Center for Disease Control and Prevention:COVID-19 mortality rate by age
*7. Wu and McGoogan, Characteristics of and Important Lessons From the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Outbreak in China
*8. Coronavirus Disease 2019 (COVID-19): Emerging and Future Challenges for Dental and Oral Medicine, J Dent Res, 2020, 99, 481-487

2020年04月22日

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