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13 新城 尊徳先生:歯周病、糖尿病、ペリオドンタルメディスン、糖尿病合併症

13 新城 尊徳先生:歯周病、糖尿病、ペリオドンタルメディスン、糖尿病合併症

■ 経歴等


出身大学:広島大学歯学部歯学科 2008年卒業
出身大学院:広島大学大学院医歯薬総合研究科展開医科学専攻(2013年卒)
留学先:Section on Vascular Cell Biology (George L King lab), Joslin Diabetes Center, Harvard Medical School (2016年5月~2019年6月)



■ 現在の肩書:


・九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座歯周病学分野 助教
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■ 研究キーワード


歯周病、糖尿病、ペリオドンタルメディスン、糖尿病合併症

■ 研究に関する概要


私は、祖母が乳がんや糖尿病などでずっと苦労していた姿を見てきたこともあり、歯学部生の頃から口腔の健康と全身の健康の関係性について興味を持っていました。

大学院に進んで研究をしたいと思っていた折、当時広島大学大学院医歯薬総合研究科健康増進歯学分野教授であった西村英紀先生にお誘いいただき、歯周病と全身疾患との関連についての学問、いわゆるペリオドンタルメディスン(歯周医学)の門を叩くことを決めました。

以来足掛け10年、一貫して歯周病と糖尿病をはじめとした全身疾患との相互関連性についての研究をしています。本邦でも、糖尿病患者・糖尿病予備軍患者数が激増している背景にあって、基礎・臨床双方のエビデンスを持って医科歯科連携の重要性をより高め、患者さんの口腔・全身の健康に寄与していくことを自分の歯科研究者としての使命と考えています。



■ 今までの研究成果


① 軽微な慢性炎症が糖尿病病態に及ぼす影響


肥満・糖尿病状態では脂肪組織内で脂肪細胞の肥大化やマクロファージなどの炎症性細胞が多数浸潤しインスリン抵抗性惹起に寄与することがわかっています。

私は、歯周病など軽微な慢性炎症が脂肪組織内の脂肪細胞とマクロファージの相互作用を介して全身に波及されるとする「脂肪細胞-マクロファージ相互作用説」に着目し、副作用が比較的少なく、糖尿病治療現場でよく処方されるDPP4阻害薬がこの脂肪組織において抗炎症作用を持つかどうか検討しました。マウス実験などにより、DPP4阻害薬はマクロファージ・脂肪細胞だけでなく、肝臓においても抗炎症作用を発揮することを明らかにしました。


② 糖尿病と歯周病病態との関連


Joslin Diabetes Centerへ留学中、50年以上インスリン自己投与を行い1型糖尿病と戦ってこられた”Medalist”と呼ばれる糖尿病患者さんを対象にした大規模な臨床・基礎研究に従事しました。
このMedalistは糖尿病の長期罹患歴があるにもかかわらず、糖尿病合併症の進行度が一般の糖尿病患者コホートよりも低いことがわかっています。King labでは、Medalistを対象にした様々な基礎・臨床研究より、糖尿病合併症の発症や進行を防ぐ因子の探索研究が盛んに行われていました。

このMedalist研究の一環として、世界的なペリオドンタルメディスン研究の第一人者であるRobert Genco博士がKingラボで共同研究をされていた経緯があり、過去に測定された歯周病検査などの歯科パラメータと様々な糖尿病関連因子との相関を検討してみることにしました。
すると、Medalistではやはり糖尿病合併症の一つである歯周病重症度が一般糖尿病患者コホートよりも低いことが分かりました。面白いことに、自己分泌インスリンが高い人は、そうでない人よりも歯周病の進行が抑えられていることも分かり、内分泌性インスリンによる歯周炎病態制御があることが示唆されました。


③ 糖尿病が歯周炎病態に及ぼす影響


②にあるように、インスリン抵抗性やインスリン分泌不全などの、「インスリンシグナルの枯渇」が糖尿病患者での歯周炎病態進行に何らかの影響を及ぼすことが考えられたため、実際に歯周組織のある細胞でインスリン受容体を欠損させたマウスを使って、歯周病を起こしてより悪化するかどうか検討しました。

すると、インスリン受容体欠損マウスでは、特に全身にインスリン抵抗性や肥満などは見られないにもかかわらず、明らかに歯周病が悪化することが分かりました。すなわち、インスリンシグナルの阻害が糖尿病関連歯周炎の病態に寄与することが示唆されました。



■ 今後の展望


現在は留学先から帰国し約1年ですが、①糖尿病が歯周炎病態に及ぼす影響と②歯周病が糖尿病など全身疾患に及ぼす影響を主な研究の柱として取り組んでいます。

特に
①については、歯周組織を構成する様々な細胞でのインスリン抵抗性が糖尿病関連歯周炎病態の形成や進行にどのように関わるかを解明し、糖尿病患者さんの歯周病進行防止や、治療効果が期待しにくい糖尿病患者さんが歯周治療による効果を享受できるようにするための方法の創出へ結び付けたいと考えています。

②については腎臓病、神経障害、心血管疾患などいわゆる糖尿病合併症に加えて、アルツハイマー病などの糖尿病関連疾患にも焦点を当てて、基礎研究と臨床研究を組み合わせながら進めていきたいと思っています。

 Joslin Diabetes Center留学中に、糖尿病内科をはじめとしたさまざまな医学研究者の方と知り合うことができました。医学研究者との交流を通して、それぞれの専門性の違いがある中で医科歯科連携をさらに進めていくためには、臨床と研究の両方で共同研究を通してエビデンスを示していく必要性を実感しました。これから積極的に医学研究者はじめ臨床・基礎研究者の方々ともコラボレーションをしていき、最終的には目の前の患者さんの歯周病治療効果の増大、全身の健康増進に還元していけるように頑張っていきます。



■ 臨床家の先生方にお伝えしたいこと


歯周病と全身疾患の関連については、昨今の医科歯科連携の重要性が叫ばれている背景にあって、すでにご存じの先生方が多いと思います。一方で、糖尿病患者さんでの血糖値コントロールに有効であることは知られていながら、腎臓病、神経障害、網膜症など糖尿病合併症にどのような影響があるかは、まだまだ確固としたエビデンスが出ていないのが現状です。
私自身、歯科治療が持つ全身の健康に対するメリット(意義)を説得力ある形で医科側に発信し、理解を得ていくための医科歯科連携充実の礎になれればと思っています。

留学中、歯科研究者としての姿勢を考え直す機会がありました。
先にお話ししたMedalistに関連しますが、数十年前は1型糖尿病を発症すると半年以内に死亡するのがほとんどだったそうです。それがJoslin Diabetes Centerをはじめとした、多くの施設の多くの研究者の努力でインスリン製剤の開発や治療法の発展がもたらされ、現在では発症後の余命は格段に延び、Medalistの方々のように50年以上も生きることができています(しかも皆さん非常にアクティブ!)。

Medalistの方々は1型糖尿病研究の発展のために、多くの寄附や死後献体など研究への協力をしておられ、それにこたえようと研究者側もさらなる努力をする、という研究者と患者さんのヒューマニティあふれる関係を目の当たりにしました。
自分自身に置き換えてみた時、私の研究も究極的には患者さん無しには成り立たず、どこまでもヒューマニティの伴った研究者でなければならないと決意を新たにしました。

患者さんや実験に用いるマウスにも感謝しながら、一歯科研究者として、一臨床家として謙虚さを忘れず日々精進していきたいと思っています。



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2020年08月03日

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