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8 山口 哲先生:マルチスケール解析、人工知能

	8 山口 哲先生:マルチスケール解析、人工知能

■ 経歴等


出身校:
明石工業高等専門学校 専攻科 機械・電子システム工学専攻(2002卒)


出身大学院:
大阪大学大学院 基礎工学研究科(2006年修了)


留学先:
Department of Biomaterials and Biomimetics、 New York University College of Dentistry(2012年4月~2012年11月)



■ 現在の肩書:


大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能再建学講座(歯科理工学教室)・准教授



リサーチマップURL



■ 研究キーワード


修復材料、コンポジットレジン、CAD/CAM冠、長期耐久性、マルチスケール解析、非線形動的有限要素解析、人工知能



■ 研究に関する概要


現在、私は、主に修復材料としてのコンポジットレジン(Composite resin: CR)の高性能化人工知能(Artificial Intelligence: AI)によるCAD/CAM冠の臨床成績向上を図る試みに取り組んでいます。

コンピュータを活用した数理科学的なアプローチでCRをモデリング、解析し、実際のin vitro実験で得られた結果との詳細な比較を行うことにより、改良すべき本質的な要因の特定を目指しています。
コンピュータは、生体のように複雑な組織を完璧に再現して解析することは困難ですが、何を比較検討すべきなのかを明確にする道具として材料設計に用いれば、非常に有効なツールとして活用できる能力を秘めています。

CRの機械的性質の向上に必要とされる要因は、
フィラーの形状、サイズ、種類、幾何学的配置やマトリックスレジンとの結合状態
などが挙げられますが、フィラーのサイズが小さいがゆえに通常の実験では、どの要因がマクロな物性に影響を及ぼしているのかを検証することが困難でした。そこで、コンピュータ上でミクロ構造とマクロ構造との連携解析を可能にするマルチスケール解析に着目しました。

まず、CRの機械的性質の向上に必要とされる要因の1つである【フィラーの形状が曲げ強さへ及ぼす影響】を評価するために、充填用CRを対象にしたマルチスケール解析を実施しました。その結果、球形フィラーよりも不定形フィラーを用いる方がCRの曲げ強さが高くなり、ミクロスケールレベルでは、最大主ひずみの分布が拡がりにくいことが明らかとなりました。
これらの結果は、フィラーの形状を工夫することでミクロ構造の破壊起始点から亀裂が伝播するのを防ぎ、マクロ構造の曲げ強さを向上できる可能性を示しています。

次に、【フィラーのサイズが圧縮強さへ及ぼす影響】を評価するために、CAD/CAM用CRブロックを対象にした解析を実施しました。その結果、ナノフィラーの直径が小さくなるほど、圧縮強さが高くなることが明らかとなりました。これは、ナノフィラーの直径が小さくなるほど、マトリックスレジン内に集中する最大主ひずみが小さくなり、フィラー同士が動きにくくなっていることに起因するものと考えられます。

さらに、【フィラーのマトリックスレジンとの結合状態が圧縮強さへ及ぼす影響】を評価したところ、結合割合が100%から低下するにつれ、圧縮強さが低下することが明らかとなりました。これは、結合割合が低下するとフィラーとマトリックスレジンの界面で変位が生じやすくなり、ナノスケールレベルでの破壊の起始点となり得ることを示唆しています。

 最近では、CAD/CAM冠の生存率を改善することを目指して、患者さまの口腔内でスキャンされた支台歯の形態データからAIの中でも特に近年注目を集めている深層学習(Deep Learning)を応用して【CAD/CAM冠が脱離する確率を事前に予測】することに成功しています。

今後は、時間の変化を考慮することが可能な非線形動的有限要素解析を用いて、破壊の起始点と亀裂が進展していく様子をコンピュータ上で再現し、臨床に則した咬合条件を反映することで、実症例でCAD/CAM冠の破折や脱離の原因を探求していきます。また、AIの中でも機械学習を活用するなどして、CRの長期耐久性を最大限に引き出すことが可能な要因を効率的に特定することで、製品の開発・実用化を加速していきたいと考えています。



■ 臨床家の先生方にお伝えしたいこと


私は日頃から常に臨床を見据えて研究に取り組むことを意識しています。

これは、高専で機械工学を学んでいた頃から変わりません。工学者として創り出した物が、単に自己満足で終わるのではなく、社会の役に立ってこそ初めて意義があると考えています。私は工学者でありながら、歯科の世界へ飛び込んで研究に取り組むことを選択しました。こうすることで、少しでも先生方に近い環境に身を置くことが可能となり、現場のニーズを正確につかめるのではないかと考えたからです。
また、先生方が日頃から抱いているニーズと工学者のシーズがうまくマッチングするためには、お互いが気を許して話し合える信頼関係を築くことがとても重要だと思っています。もし、国内外の学会や講演会などで私を見かける機会がございましたら、どうか気軽にお声がけください。

「○○しない△△用の材料があれば、もっと治療しやすくなるのに」や「○○が予測できるAIシステムがあれば、もっと治療計画の立案がスムーズになるのに」などのちょっとした会話から、世界の治療を変える材料や治療支援システムが誕生するかもしれません。



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2020年06月04日

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